メソポーラス材料の開発

東工大資源研 野村淳子助手との共同研究


多孔質材料は分離材や吸着材,触媒あるいはその担体として使用されています。これら多孔質材料の性質は細孔の直径、分布、配列や細孔内の表面構造によって決定されます。特に細孔径は多孔質材料の性質を決定する大きな要素であります。

IUPACによって多孔質材料は以下のように分類されています

細孔径 名前
〜2nm ミクロポア
2〜50nm メソポア
50nm〜 マクロポア

多孔質材料として有名なのはゼオライトですが、多くのゼオライトの細孔径は1nm以下であるため、分子量の大きな分子は細孔への導入や拡散が阻害され、細孔内を利用した化学反応を起こすことは難しいと言えます。

そこで、ミクロ孔とマクロ孔の中間であるメソ孔を持つ材料(メソポーラス材料)の合成が行われました。1992-1993年には相次いでMCM-41やFSM-16といったメソポーラスシリカが見出されました。これらの材料は界面活性剤ミセルを構造鋳型剤に用いて合成されており、1000m2/g以上の高い比表面積を持ち、円筒状のメソ細孔がハニカム状に規則正しく配列していることが特徴です。この報告以降、様々な種類の界面活性剤ミセルを構造鋳型剤として用いた新規メソポーラスシリカの合成が数多く報告されています。しかし、メソポーラスシリカは細孔壁が一様なアモルファスシリカであるために、触媒作用などの機能性は期待できませんでした。

シリカ骨格に触媒作用を持つ遷移金属酸化物を導入する試みがなされましたが、シリカをベースとした骨格においては細孔壁を機能化することが難しいことがわかってきました。そこで、触媒や半導体などの機能性材料として幅広く用いられている遷移金属酸化物を骨格としたメソポーラス材料の合成が行われました。その結果、Al2O3、Nb2O5、Ta2O5、TiO2、ZrO2、SnO2などの遷移金属酸化物のメソポーラス材料が報告されました。我々のグループにおいても遷移金属酸化物に注目して、単純酸化物や複合酸化物を骨格成分としたメソポーラス材料の調製に取り組んできました。

図1及び2はそれぞれ我々が調製した2D-Hexagonal細孔構造を有するメソポーラスNb-Ta複合酸化物,メソポーラスMg-Ta複合酸化物のTEM像です。ハニカム状に配列した規則正しい細孔構造が広い範囲で形成されている様子がわかります。我々はメソポーラスNb-Ta複合酸化物の結晶化にも成功しており、さらにカーボンを細孔内に充填することによって2D-Hexagonal構造を保ったままで細孔壁を結晶化できることを見出しました。


図1 メソポーラスNb-Ta複合酸化物のTEM像


図2 メソポーラスMg-Ta複合酸化物のTEM像

一方、図3に示すのは3D-Hexagonal構造を有するメソポーラスNb2O5のTEM像です。通常、メソポーラスNb2O5を合成するとワームホール型の細孔構造が形成されますが、金属カチオンを導入すると図に示すように規則正しい細孔構造を示すようになります。このように我々は遷移金属酸化物を骨格成分として規則性の高い3D-Hexagonal構造が形成されることを世界に先駆けて報告しました。このメソポーラスNb2O5に関しては2段階熟成操作を経て水で洗浄することによってスーパーミクロポーラスNb2O5(細孔径:1.5nm)を調製できることも報告しています。


図3 3D-Hexagonal細孔構造を有するメソポーラスNb2O5のTEM像と電子線回折像

我々はこれらのメソポーラス材料を機能性材料に応用することを試みています。光触媒を用いた水の光分解反応は次世代エネルギーキャリアである水素を得る手段として大変注目を浴びています。半導体光触媒の問題点としては、バルク内部で生成した電子と正孔が水と反応するために表面にたどり着くまでに再結合を起こしてしまうことが挙げられます。メソポーラス材料は細孔構造を有するためにバルク内部と表面の距離が比較的短く、細孔壁の内部で生じた電子と正孔が速やかに表面にたどり着くことができると考えられます。これらのコンセプトの元に我々はメソポーラス光触媒を用いた水の光分解反応を行っています。

図4,5はそれぞれメソポーラスTa2O5及びメソポーラスMg-Ta複合酸化物を光触媒として用いた水の光分解反応の結果です。一般的に光触媒材料としては速やかな電荷移動を促進するために結晶性の高い材料の方が活性が高いと言われています。メソポーラスTa2O5は細孔壁がアモルファスにもかかわらず水の光分解反応に活性を示したことは興味深い結果であり、アモルファス酸化物においても速やかな電荷移動が実現されれば、光触媒活性を示すということが明らかとなりました。


図4 メソポーラスTa2O5を用いた水の光分解反応

図5 メソポーラスMg-Ta複合酸化物を用いた水の光分解反応

最近、我々はメソポーラスTa2O5にCVD法を用いてSiO2をコーティングし,その後焼成・SiO2除去を行うことにより、メソポーラスTa2O5の結晶化に成功しました(図6)。


図6 結晶化したメソポーラスTa2O5

さらに、CVD法でSiO2コーティングを行った後にアンモニア気流中で焼成すると、細孔構造を維持したまま窒化が進行し、メソポーラスTa3N5が生成することを明らかにしました。このメソポーラスTa3N5は可視光に応答し、バルク体のTa3N5に比べて犠牲試薬存在下の水素の生成反応に高い活性を示すことがわかりました(図7と8)。


図6 結晶化したメソポーラスTa3N5




図7 メソポーラスTa3N5を用いた犠牲剤存在下での水素の生成反応

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